地上に出てきたセミは、木の枝を素早く駆け上り、葉っぱの裏側にしがみついて羽化します。葉っぱの裏に隠れることで、羽化してから翌日に飛び立てるようになるまでの、最も無防備な状態で外敵に見付かるリスクを減らそうとしているのでしょう。
2011年の夏に見付けた空蝉(うつせみ。セミの抜け殻)は、枝が剪定されていることが分からずに駆け上ってきて、そのまま羽化したことを物語っています。
それは、「引き返そうとは思わなかった」ということでもあります。そこで、引き返そうとした形跡のある空蝉を探すことにしました。
すると、8年後の2019年に見付けることができました。
逆さになって羽化していることが「引き返そうとした形跡」と考えて間違いないでしょう。けれども、遺伝子が許してくれなかったことを物語っています。仮に引き返して別の枝を選んでも、同じような状況に陥る可能性は高く、時間だけが経過してしまうことになりかねません。そのため、その場所で羽化した方がよいことを遺伝子が教えているのでしょう。
中には遺伝子に逆らって引き返した個体があるかもしれません。それは空蝉からは観測できませんので、そういう可能性に思いを馳せてみるのも楽しいことです。